そうじゃない 考察・意見 音楽

AI美空ひばりの何を評価するべきか。冒涜とか言うのはズレてんじゃないのか。

年末からずっと気になってることがあります。そう。AI美空ひばり。紅白歌合戦でやってた、あれです。一部では、冒涜だという意見があり、それは一部の意見のはずなのに、大きく取り上げられています。

www.huffingtonpost.jp

結論から言えば、僕は、「冒涜だ」という意見はおかしいと思っています。いや、そりゃどういう意見を言おうが個人の自由ですけど。

やろうと思えばもっとやれる

僕が紅白で見て、一番感じたのは、この点でした。自然に動くことを最重視するなら、別にロボットじゃなくていいわけですよ。それこそ何年か前の紅白でサカナクションがやってのけたように、超リアルな立体映像を映し出す技術はもうあるのです。映像でやればいいじゃないですか。そうでしょ?だって主役は歌、声なのですから。見た目なんてどうだっていいはずです。

なぜ、立体映像を使わなかったのか。なぜ、もっと似させられるのに、あそこまでにとどめたのか。それこそ、美空ひばりに対する敬意なのではないですか。AI美空ひばりチームが見せたかったのは技術の進歩であって、本物そっくりの美空ひばりではない。逆に言えば、本物に見えないように配慮した。とは、考えられませんか?

(追記 あれ、3D映像だったようですね。テレビで見てて全然気づかなかった。失礼しました。でも「次元を下げればもっと似させられる」という主旨は変わらないので、記述はこのままにしておきます。)

死者を操ろうとしたのか

www.nishinippon.co.jp

この記事によれば、秋元康氏が語らせたかった言葉を語らせた、ということになっています。実際、インタビューではそう言ったのでしょう。でもね、本当に秋元氏が言わせたいことを言わせたのだと思います?別に擁護するわけじゃないですよ。どっちかというと、僕は秋元氏、嫌いです。ただ、この件に関しては、非難する気にならない。彼はこの曲の作詞家です。つまり、曲間のセリフも、彼が決めねばならない。だから「彼が美空ひばりさんをあやつった」わけではないのです。そんなこと言ったら、美空ひばりさんが現役の時の曲間セリフだって、誰かが書いてるわけですから。

 

さらに。もうひとつ思ったこと。曲間のセリフをもう一度振り返ります。

『お久しぶりです。あなたのことをずっと見ていましたよ。』

このセリフは、普通に考えたら、美空ひばりさんから、皆さんへのメッセージ。
でも、本当にそうでしょうか?
ひばりさんが僕たちを見ていた、のではなく、僕たちがひばりさんを見ていたのでは?

AIで歌声を再現できるとなった時、美空ひばりをやってみようと思ったのはなぜですか。僕たちが、美空ひばりをずっと見ていた(意識していた)からでしょう?
美空ひばりを完全再現できたなら、AIは人間に近づいたと言える。そう思ったのではないですか。コンピューターが、チェス世界2位の人に勝ったって、人間を超えたことにならないのと一緒です。
ボーカリストとして圧倒的No.1である彼女を再現できた時、技術の到達点と言える。ボーカリストとしていまだ超える人が出てこない彼女を、僕らがずっと見てきたからこその、曲間のセリフなのではないでしょうか。
これを単に「死者を操った」なんてしょーもない批判に落とし込んでしまっていいのですか。仮に批判するにしても、セリフを書いた秋元氏個人を批判するべきであって、「AI美空ひばり」を批判するのはズレています。

なにより、歌詞の意味と、あのセリフはしっかりあっていますし。

もっともらしい言葉で非難するのはつまらない

僕が「冒涜だ」という意見が嫌いなのは、この思いがあるからです。「好き」「嫌い」なら、良いのですよ。正しい/正しくないの話じゃなくて、主観であることをはっきりさせているから。でもね、冒涜と言った瞬間に、言った側が正しいっぽくなるわけです。つまらない。前出記事の中村メイコさんみたいに「いやだ」って言えばいいのに。そのほうがよほど共感できる。イヤな気持ちはわかる。

 

結局、AI美空ひばりを”もっともらしく”批判する声って、どれもクリエイティブじゃないんですよ。AI美空ひばりを作ろうとした人たちに比べて、テンプレート的で圧倒的につまらないのです。

 

そのうえで、もう一度聞いてみる

まあしかし、ここまで書いてきたようなことは、本当はどうでもいいんですよ。だってこれは音楽なのだから。「曲や歌詞がどうなのか」で評価するのが、唯一の正しい方法です。そのほかについては、批判も賞賛も、どうでもいいことです。

というわけで、曲を改めて聞いてみてください。できればヘッドホンなどで。


美空ひばり(AI歌唱) / あれから(メモリアル映像)

どうですか。

僕は図らずも、心を動かされてしまいました。紅白で見た時は、ロボットなどに目を奪われて、「よくここまで似せたね~」くらいしか思っていなかったのですが、今聴くと、すごいですよこれは。

 

わかるでしょう。やっぱりロボットはおまけだったのです。歌、AIが再現しているレベルでこれです。(子供だったので)現役の美空ひばりを真剣に聴いていなかった世代としては、AIのすごさより、「AIでここまで心を動かされるってことは、本物の美空ひばりはどれほどスゴかったのだろう」と思ってしまうわけです。AIではなく本物を、生で、一度聴いてみたかった。そういうあこがれが強くなりこそしても、冒涜になんか、なりようがない。

 

NHKは、真っ暗な中で歌だけを流せば良かったのではないかな。

そしたら多くの人が、この曲、歌の素晴らしさを堪能できたでしょう。雑音に惑わされることなく。

 

あ、でもただひとつ。

美空ひばり(AI歌唱)ってクレジットは、いただけないですね。
ちゃんと「AI美空ひばり」にしてほしいです。別物だと分かるように。
ここまで僕が「本物の美空ひばりを装いたいわけじゃない」って熱弁してきたことが台無しやないかい!

photo credit: akrabat Piano practice via photopin (license)

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