ブログをもう、7年くらい書いている。
何のために書いているのかは、よくわからない。
わからないから、プロブロガーと自分のやり方を比較してみたり、セルフブランディングがどうこう、みたいなことを考えてみたり、せっかく書いているのだから収益化したいと思ってみたり、いや俺は収益のために書いてるんじゃない、と思ってみたり。つまりは、迷ってきた。7年経ってもまだ迷っている。
どこの馬の骨ともわからない僕の、意見や考察を読みたい人なんているわけないし、かといって「これ買って役に立ちました!!」みたいな記事ばかり書いても、なんか違う。いや、買ったものレビューもけっこう書いてるけどさ。
ブログ指南本にはよく「他の人に役に立つことを書け」とある。みんなに読まれたいなら、それは正しいと思う。でも、それじゃあんまりおもしろくないなあ、と僕は抵抗を感じてきた。似たような記事はいくらでもある。その中で一番役に立つ自信はない。
結局、どうすりゃいいんだろう。僕はどうしたいんだろう。
と思っていたところへ、この本がでた。
この本を読むまでは、田中泰延さんとは、広い分野にわたって知識があり、おもしろい人、という理解だった。それだけでこの本を書う理由には十分だったんだけど、中味は期待以上だった。というか、期待してなかったお釣りだらけだった。
本の中身は、タイトルが端的に示している。内容を説明する手間がなくて、ありがたい。釣りタイトルの本が多い中、誠実と言えるのではないだろうか。タイトルを見て、「あっ」と思った人には、かなり高い確率でこの本は響く。本の中味は、このタイトルを様々な切り口から補強する説明にあふれていて、最初に想像したよりもはるかに豊かだ。そういうわけでほとんどお釣りだらけ、という印象になる。
この本では「田中さんが文章を、いかに誠実に書いているか」ということがよくわかる。田中さんファンでもない限り、田中さんのスタンスなんてどうでも良いことだと思ってしまうが、実はファン以外にも結構大事なことだ。つまり、あなたが読んで面白い文章は、お茶漬けのようにサラサラっと書かれたようでいて、本当は、TOKIOが鉄腕ダッシュで作るラーメンのように手が込んでいるのだ、ということ。これはきっと、僕がこれから文章を読むときにも大事な視点だと思う。Webでは特に。
そういう水面下の労力に支えられたこの本は、無駄話が多く見えるのに上げ底感がないというか、エルモのが、もとい、Elmoのが、いや得るものがとても多い。なんで「得るもの」って一発変換できないんだ。エルモってそんなにメジャーなのか。
とにかくこの本によって僕は、大げさに言えば「自分のブログ、どうしたいのか」ということに対してやっと迷いが晴れた。ブログで稼ぎたいわけでも、有名になりたいわけでもない僕は、自分が読みたいことを書けばいいのだ。その指針こそが僕の文章をブラッシュアップする。
読みたいことを書けばいい、という指針はシンプルでありながら、かなり多くの効果がある。たとえば…
- ちょっと見聞きしたものを適当にこねくり回しただけの記事ではなくなる。僕がそういう薄っぺらい記事がキライだから。
- 対象に敬意を持った、読んでいて気持ちの良い文章になる。過激で汚い言葉を使った極論は、僕が読みたいものではない。
- 「書きたいことを書けばいい」じゃないのがポイント。読者が自分ひとりでも、読む側目線に立つヒントがここにある。
などなど。少し前に読んだ幡野広志さんの本とも重なる。
幡野さんの文章がなぜ、身近な肌触りでありながらあんなに優しく力強いのか。それはきっと、息子さんに伝えたいことを書いているからだ。いつか僕がいなくなって、誰かがこのブログを読んだとき、ああ、こいつはこんなことを考えていたんだなあ、と伝われば嬉しい。そのために文章を書くならば、丁寧で、対象に敬意を持った文章となるだろうし、僕が幡野さんの文章を読みたいと思うように、僕は僕の文章を読みたいと思えるのではないか。
結局、僕は、言葉を大切にし、自分がどんな人間かを刻みながら、表現していきたいのだ。
ってなると、いよいよ、僕を知らない人にとってはどうでもいい文章となってしまうが、まあそれはいいとする。そんなこと考えたって仕方ないんだ。
もうひとつ、ブログを書くときによく迷うこと。どこまで断り書き、というか予防線を張るか。予防線が多い文章は、おもしろくない。これへの答えも、得た気がする。
結局、絞るほどつたわる。それは写真と同じなのだろう。画面の中で最も際立たせたいものにピントをあわせると、背景はボケる。そして対象は際立つ。全ての表現はそういうことなのかもしれない。
対象に対する敬意こそが最大の予防線であり、それがあるから、勇気を持って伝えたいことを絞り込めばいいのだ。
書くことが、また少し楽しくなった気がする。
photo credit: M.P.N.texan "Horses of the World" via photopin (license)