書評

仕事で悩んだときにぴったり。日本にはすごい考え方があるのです。「あなたの牛を追いなさい」レビュー

仕事で悩み、みんないろいろありますよね。
成績が伸びないとか、人間関係が良くないとか、仕事の内容に納得がいかないとか。
具体的じゃなくても、なんとな~く、このままで良いのかなあ、なんて悩みもあります。
それぞれ、悩みの内容にあった本がありますが、すべてのベースとなる素晴らしい本に出会いました。

なぜこの本が悩みに効くか

これ、一言で言うと、禅の本です。
千年以上前に描かれた「十牛図」という絵をもとに、あの「孤独のグルメ」の松重さんと、お寺の住職さんが、松重さんの役者人生を振り返る というような本です。役者人生そのものを振り返るのではなく、10代、20代、30代それぞれでこんなことに悩んでいた、という話。それを、今回のテーマである十牛図と並べてみると、キレイに当てはまるね。ってことは十牛図って、仕事(人生)の悩みの指針を既に示しているのでは。という対話。

apple創業者のスティーブ・ジョブズが禅に傾倒していたという話は有名ですが、シンプルさを突き詰めるとか、そういう話だと思っていました。
でも違ったのです。質素とか、シンプルとか、それは表面的なものでしかなかった。

自分をいかに手放すか。

それが、どうやら禅を学ぶ良いところ。
これから本を読む方々に、そんなこと書いてもよくわからないとは思いますが、すみません。
わかりやすく言えば、「俺が、俺が」を手放すということです。
私は周りを巻き込むのが下手で、自分の意見を通すのが上手いタイプではありませんが、そんな私でもこの本は染みました。
普段サポートに回るタイプの人にも、「俺が、俺が」が必ずある。それに気づける。
それに気づけたら、悩みは半分解決したも同然です。解決、というよりは、悩みで苦しくなくなる というほうが正しいかな。
ここはなんとも説明しがたいので、読んでいただくしかない。

この本、中身としては、穏やかな対話にすぎません。わかりやすいけど、グイグイ進むわけでもないし、はっきりした結論が出る話でもない。それなのに、読みすすめるうちに不思議と、読者自分自身との向き合いが始まります。この感覚が気持ちいい。また、悩みの解決をはっきり教えられたわけじゃないのに、なんとな~く、悩みの手放しかたが分かる。そんな感じです。

自分を手放すとはどういうことか

ここまでの説明では、本を読まないと何ともわからないので、もう少し具体例で話してみます。
私がこの本を読みながら思い出したのは、会議のファシリテーション。司会進行役、かつ、議論の盛り上げ役みたいな立場です。
ファシリテーターの役割は、会議をまとめ、よりよい結論に導くこと。できれば時間内に。
なるべく全員の意見を引き出し、論点を明確にし、脱線は引き戻し、みんなで話し合ったからこそ出てきた良い結論へ着地させる。
結構むずかしい役割ですが、自分の意見を押し通してはダメなことはわかりますよね。
司会役が「俺が、俺が」だったら、会議はめちゃくちゃです。

さて再度整理すると、

  • 目指すべきゴールを見失わず
  • 場に出た意見を整理し
  • よりよい意見が出るように促す

というのがファシリテーターの大事な立ち位置。そう。自分は置いといて、環境やその場の流れを良く見て、貢献すること。これが出来るとすごく良い会議になる。
これが「自分を手放す」ということなんですね。禅で言えば無我というらしいです。

でも自分を消すのとは違う

こう書くと、一部の方は「自分の意見を消すならば、自分がファシリテーターをやる意味がない。他の人でもいいだろ」と言われるかもしれません。
実は、それも違う。
あなたがファシリテーターを任されたなら、あなたなりのやり方でやればいい。あなたの意見を通す場ではないけれど、あなたが良いと思った意見を深堀りすればいいし、あなたなりの議論整理をすればよい。それがあなたの貢献のしかた。あなたがファシリテーターをやった意味はある。
さらに言えば、「自分じゃなくてもいいだろ」とか、そんなことどうでもいいのです。「あなたじゃなきゃダメなんだ」を期待すること、それ自体が「俺が俺が」の考え方なのですね。自分の色を出す、ことは考えないけれど、どうやったら自分が貢献できるか は考える。そんな感じ。

結局、仕事全般において、無我が最強なのですよ。
無我なら、先入観なしに問題に向き合うから、問題の真の解決法が見えてきやすい。しがらみも、虚栄心もなく、本当に問題を解決するにはどうしたらいいか、を見つめることができる。マンガ「バガボンド」で出てくる言葉「融通無碍」のような状態。
融通無碍を目指すための、第一歩を知ったような気持ちです。

あと覚えておきたいメモ

以上がメインの話ですが、ひとつだけ、別でメモしておきたいところがありました。
縁はつながっていくからこそ、大切にする、という話。悪い縁はきちんと断ち切らないと、どんどん悪いスパイラルにハマる。
逆に、良い縁は大切にすると、どんどん良い展開になる。わらしべ長者みたいなものですかね。
縁のいい悪いは直感で判断するしかないですが、なんとなく分かる気がする。

そして、良い縁のスタート(起点)を得ることが、「縁起がいい」ということ。

良い縁を掴むには、いつも準備をしているということ。
セレンディピティとかの話にも通じます。

いつも準備を欠かさず、良い縁は、意識的に大事にする。覚えておきたい点です。

以上、いろいろ書いてきましたが、この本、ほんとお勧めです。軽く読めるし、ぜひ一度どうぞ。

-書評